苔のはえた大小様々な石を
バランスに気を付けて進む
狭かった道が開け
細い水の通り道が現れる
沢蟹は突然の来客に驚き
辺りへ逃げる
ここはもう無人の小川だった頃を失った
手に水の冷たさをのせ
こぼれ落ちる音を静寂に流し込む
ふと目を上にやると
日を遮る木の枝たちに
鳥は飛び乗って遊んでいた
異物に気付いたのか
鳥はいつしか姿を見せなくなっていた
ああ
日常を避け山に身を潜めようとした男よ
君はどこへいったって君を連れていっているのだ
君のいないところなんて
君の世界にはどこにもないのだ
隣の家が燃えている
叫び声
遠くから聞こえる消防車のサイレン
地の底から聞こえるような炎の音が
すべてを嘲笑う
やがて火は止まるだろう
何もかもを燃やすか
何かが燃え残るかの違いを
向かってくる消防車が作り出す
彼らは知っているのだ
彼らの出来ることの限界を
そして
何一つ過去から引き継ぐことのない材料で
同じような
あるいは同じではない家がまた建つのだろう
どんな顔でその時を迎えるのだろう
複雑な新居を
やっと
サイレンの主はたどり着き
空しい作業に取りかかる
なにも生むことのない作業に
寒さは目に見えないけれど
存在はしていて
例えば
寒さに凍える人を見ることはできる
恋心は目に見えないけれど
存在はしていて
例えば
恋心に酔っている人や
苦しんでいる人を見ることができる
見えないけれど
確かに存在するもの
そんなものほど僕らには
どうしようもなくて
けれど重要なものだから
悩ましい
こんな世界に
花は咲いて
こんな世界に
海はさざめいて
息をのむような真っ赤なバラ
青に映える白いカモメ
生きること
意味なんて考えないで生きている人の方が
誰よりも賢い
降り積もった雪僕らは銀世界に愛を書き込んだ僕らは間違っていなかった雪は溶けぐちゃぐちゃの地面が露出する頃には愛は跡形もなくてそれは当たり前のことだった愛一色に染まった僕らの心愛は溶け覚めきった現実だけがぐちゃぐちゃの地面のように二人に残っただけだった僕らは間違っていなかったしそれは当たり前のことだったんだ
祈りましょう
今日という日が
いい日になりますように
明日や明日より先が
穏やかに過ごせますように
太陽は雲のない空を
ゆっくりと上ってゆく
昨日や昨日より前の日の
悲しい思い出がいつか
穏やかに振り返ることができるよう
タフな自分になれますように
心の太陽は雲だらけの胸の中を
ゆっくりと上ろうとしている
うつくしの丘
咲き乱れる花々
香る豊穣
人々はただ
幸せを享受する
悲しみのない
嘘が形になった世界